
HISUI ORIGINAL TALE · 創作譚
月と翡翠の約束
月が読む。魔女が編む。石が覚えている。
月の見えない夜、魔女の机に、一粒の翡翠の勾玉が届いた。切れた紐と、宛名のない便り。「人は、ときどき自分の願いを置き去りにする」。差出人には、月読とあった。
魔女と月読は、同じ神でも、同じ声でもない。夜を渡る問いと、それを人の手元へ届ける手。その二つを結ぶ石が、この物語の翡翠です。
- 月読
- 夜に置き去りにされた願いを読み、便りにする。
- 魔女
- 届いた問いを言葉に、選ばれた願いを石に編む。
- 翡翠
- 二人の約束を結ぶ勾玉。願いを持ち主へ返すしるし。
01
一通目の便り
魔女は勾玉を燭火にかざした。深い緑の奥に、磨かれる前の山の暗さが残っていた。誰のものかも分からない石に、どうして自分が紐を通すのだろう。
窓の向こうから、月読の返事が来た。「私には、夜に落ちた願いが読める。けれど、それを願った人の手を取ることはできない」
魔女は針を置いた。「だったら、私が問いかけよう。でも、何を願うかまで、私たちが決めてはいけない」
02
翡翠という名の、結び目
二人は約束した。未来を言い渡すのではなく、その人が置き去りにした声を返すこと。月読は夜から便りを寄せ、魔女は机の上で、その言葉をほどくこと。
魔女が勾玉の穴へ紐を通すと、石は小さく向きを変えた。欠けた月にも、まだ結ばれていない輪にも見えた。閉じていないから、次の願いを通せるのだと思った。
HISUI。日本語で、翡翠。この物語では、その名を「遠い時間と、いま生きる人の願いを結ぶ石」に重ねる。魔女は古い神の代わりではない。古い物語から届く問いを、今夜の言葉に編む人だ。
03
月読の窓と、魔女の机
巫女の札を開くと、月読のいる神話の世界に窓がひらく。魔女の札を開くと、薔薇と燭火の机に、同じ問いが届く。二つの絵柄は、別々の運命を告げるためにあるのではない。
月読は尋ねる。「その願いに、誰の声が混じっている?」魔女は続ける。「いい子でいるための願いなら、今夜くらい置いておいで」
遠くから照らす声と、そばで結び直す手。あなたは、その夜に届く方の便りを開けばいい。
04
四つの夜と、まだ結ばない紐
新月、魔女は白い紙を一枚置く。上弦、あなたが書いた一歩に、最初の結び目をつくる。満月、月読はあの夜の言葉を返し、いまも同じ願いかと尋ねる。下弦、魔女は役目を終えた結び目をほどく。
石を編むのは、願いを閉じ込めるためではない。月が満ちても欠けても、自分で選んだことを忘れないために。
今夜、机の上には、まだ結ばれていない紐がある。次の便りの宛名を書くのは、あなたです。
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今度は、あなたの便りを。
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